PART 1
「天使が見た風景」は、2006年11月に開催したグループ展「HOUSE OF D」で発表した作品です。
この時の展示作品は、「詩の視点」というタイトルの組写真でした。
「詩を視点を変えて読んでみよう」という実験的な作品です。
どんな写真かというと、詩を印字した白い紙をちぎり、
上から一枚ずつ落としていく様を撮影したというものです。
一編の詩に対し、十枚の写真を撮り、組写真にしました。
それが十編ありましたので、合計百枚の写真ということですね。
詩の紙をバラバラにしたのは、先ほど言った、
視点を変えて詩を読んでみるということを具体化したかったからです。
つまり、例えば、天使だったら、どんなふうに詩を読むのだろうか?ということを考えたのです。
天使だったら、一瞬で全体を見て、バラバラに文字を読むだろうと思い、
それを形にしたというわけです。
写真は、全てL判サイズで、白い壁に展示しました。
白に白の写真では、目立たない?と思われるでしょうが、
今回は、どうしても白い作品にしたかったのです。
なぜかというと、その白い壁に、映像を投影するからです。
実は、この時、朗読をすることを考えていたのでした。
展示作品の前で、その作品を読むという試みです。
私ともう1人の女性に参加してもらい、二人で交互に読みました。
その時、壁に映像を映してもらったのです。いわゆるVJというものです。
朗読とVJと音楽。このパフォーマンスを「リーディングN極」と名付け、二日間に亘り、行いました。
「リーディングN極」という名前は、
『誰も知らない最北端の地「N極」に行って、朗読する』という意味です。
さて、ここまで考えて、何かが足りない、もしくは、何かが必要だと思いました。
それは、展示作品と朗読を繋ぐものです。
それは、きっと物語であろうと思いました。
では、どんな物語?
私は、そのことをずっと考え続け、そして、この「天使が見た風景」を生み出したのです。
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PART 2
では、この作品ができたのは、いつか?
それは、アルバイトの真っ最中の時でした。
何のアルバイトかというと、チラシ封入のアルバイトです。
7枚のチラシをまとめ封筒に入れ、その数でアルバイト料が決まるというもので、
都合のよい日時に、働けるものでした。
私は、その年の末に、個展を開きたいと考えていて、
その資金稼ぎのために、このアルバイトをしていたというわけです。
さて、その日は、祝日の昼間。
私は、一人で、その作業をしていました。
さすがに、祝日にアルバイトに来る人は誰もいなかったのです。
私は、ぽつんと一人で、何も考えずに、作業に没頭していました。
作業場では、確かラジオが流れていたと思います。
でも、私の耳には、何も入ってきませんでした。
チラシをめくる音、集める音、封筒に入れる音・・・
もしかしたら、それすら、聞こえてなかったかもしれません。
私の頭の中は、真っ白でした。
私の目は、カラフルなチラシを見ているはずでしたが、それすら、見ていたかどうか・・・
全くの無。何もない白。真っ白な世界が私を満たしていきました。
その時です。
私は、見ているはずのないものを見ました。
そして、その瞬間、私の頭に聞こえるはずのない声が聞こえてきました。
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PART 3
ここからは、私の脳内の世界です。
私の額に、ふわりと何かが降ってきたのです。
私は、見上げます。
「あ。羽根・・・」
「あ。雪・・・」
私の思考と主人公の声が重なりました。
私は、ふわりと落ちてきた羽根を受け取ります。
「羽根だと思う。」
はっきりと、その声を聞いた時、私の体はしっかりとその言葉を抱きしめ、大切にしまい込みました。
この先は、思考がどんどん膨らんでも考えてはいけない。
・・・言語化せず、この感触だけをそっくりそのまま、持ち帰るのだ・・・
本能でそう感じていました。
三千枚のチラシ封入を終え、家に帰りました。
でも、家に帰っても、すぐには、ノートを開きませんでした。
物語が全て出来上がるのを待つのです。
そのタイミングを見計らって、私は、ノートを開きます。
そして、私の中に聞こえてくる声をそのままに書き写しました。
このようにして出来上がったのが、詩物語「天使が見た風景」です。
この作品は、展示した百枚の写真の間に一行ずつキャプションのように設置しました。
白い壁に白い写真と白い文字は、空から、雪と羽根が降ってくるようでした。
あまり、詩になじみのない方が、「詩を感じることができた」と言ってくださいました。
天使の視点が伝えてくれたのだと思います。
展示作品「詩の視点」というタイトルは、逆さに読むと「天使の詩」となります。
視点を変えれば、見えないものが見えてくる・・・
雪の中に羽根が見えるように、
この作品に触れることで、あなたにも何かが見えてきたら、嬉しいです。
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ちなみに、そのチラシ封入のアルバイト先は、
この作品を発表することになっていたギャラリーのすぐ近くだったのです。(偶然なのですが)
そして、もちろん、このアルバイトで資金を貯め、年末に個展を開くことができました。
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